スアとハトと言葉の力
今回の記事も二次創作となります。スアとハトのおはなしです。前回とは(展開は同じだけど)関係ないのでおひまな時に目を通してもらうと幸いです。
「~~♪」
実験体番号、17M-RFT32、クォン・スアは鼻歌交じりにルミア島をおさんぽしています。港ではレーサーと釣り人が水泳選手に叱られています。どうやらレーサーが釣り人をそそのかして、海で泳いでいた水泳選手を釣り上げたようです。ですが、険悪な雰囲気ではなさそうなので、スアはさんぽを続けます。
学校まで足を運び、ベンチで一息つこうとしたスアは校庭の方から音楽が聞こえてくるのに気づきました。スアが音の正体を確かめようと近づいたところ、愛と平和を歌うギターシンガー、16M-RFT22、ハト・フロイドがギターの練習をしていました。音楽に熱中しているのか、近づいたスアに気づきません。スアも、ハトの邪魔をしたくないと思い声をかけることはせず、座るのにちょうどいい場所を探し、持ってきた本を開きました。やがて、橙色に染まる空の下、ようやく演奏を止めたハトがあたりを見回すと、書に没頭しているスアを見つけました。
「えっと、聞こえて、たのかな。……どうしよう」
ハトはスアに声をかけようか、いや読書の邪魔をしちゃ悪いかなと考えてるうちに、ちょうど持ってきた本を読み終わったのか、スアが頭を上げます。目と目が合う二人。ハトは思わず目を下にそむけてしまいます。スアはそんなことは気にせず、にこにこ微笑みつつハトの方へ歩き出します。
「あら~。もうこんな時間ですか。いい音楽だったので、聴きながら本を読みたくなったんです。もしかして、お邪魔でしたか?」
「えっと、……ううん。邪魔じゃ、なかった。その、あり……がと」
「……? いつもここで歌うんですか? また聴いてみたいです~」
「え……? うん。部屋だと防音が良くないからいつも外の広い場所を探して、そしたらここがちょうど良くて」
「わ~。それじゃあ、またここに来てもいいですか?」
「もちろん……。また聴いてくれると、その――」
「あっ、もう外も暗くなり始めましたし、よければいっしょに帰りましょう」
ハトは何か言いたげでしたが、黙ってうなづき、ギターをケースに戻し、小型のアンプを手に持ちました。スアはとなりに並び、ハトの顔を見上げながら談笑します。
「私、クォン・スアっていいます。ここに来る前は図書館で司書をやってました~。あなたは?」
「私は、ハト・フロイド。アメリカの方でギターと、歌をやってて、実家はアーモンド農園をやっていて――」
自己紹介をしつつ、ゆっくりと歩く二人。スアの心にはルミア島に来て久しぶりにぽかぽかした気分になりました。
スアとハトが出会ってからちょっとたったある日。スアはあの日以来、ようやく外出することができました。いつものように本を小脇に抱えて、自分の部屋の扉を開きます。またハトさんに会いたいですね~。と思いつつ、研究棟を出ようとしたとき、担当の研究員に引き止められました。
「17M-RFT32、スア。ちょっといいか」
「はい。大丈夫です。確か、今日は何もなかったはずですよね」
「まあ、その通りだが、……どこへ行く?
「学校の方までおさんぽしようかな~と。そこで会えたらハトさんの音楽を聴きつつこの本を読もうかなと思ってるんです」
研究員はふぅーっと一息。どこへ行く聞いたわりに、すでに知っていたと言わんばかりの態度です。研究員はようやく本題を切り出します。
「お前は、人間の心、考えが音楽の力で変えられると思っているのか?」
「変えられると思いますよ~。だって、有名な人のライブとかにたくさんの人が集まっているじゃないですか~。それは音楽とか、歌手さんに共感したのだと思います」
「だがな、有名なバンドとかはよく音楽性の違いとかで解散しているだろう? 仲間内ですら考えがまとまらないのに、他人なら変えられると思うのはおかしな話だろう。……実際の解散理由は金か女だろうが」
「でも、音楽とその人の人柄とかは関係ないと思いますよ。例えば『エミール』や『社会契約論』で有名なルソーは、よく嘘をついたり、匿ってくれた人を裏切ったりと立派な人ではありませんが、ルソーの言葉は人々の意識を変えました」
「そうか。お前ならそう考えるだろう。もういいぞ。行ってくるといい」
何でそんなことを聞いてきたのだろうとスアは疑問に思いましたが、少し頭を下げ研究員の下を立ち去ります。予定通り、学校に足を運ぶと、よく晴れた青空の下でハトがギターを弾いていました。周りに人がいないので、今日もライブではなくただの練習でしょう。
スアはハトの邪魔をしないように少し遠めのベンチに腰掛けます。本も開かずニコニコしながらハトの音楽に聴き入っていている様子です。ハトが演奏を止め、一息ついたところで、スアはてくてくとハトに近寄りました。
「ハトさん。こんにちは~」
「あっ、スアさん。こんにちは。私の演奏、聴いてくれましたか?」
「はい~。とてもよかったと思いますよ~」
スアは変わらずニコニコしながら答えます。しかし、ハトは納得がいかない様子です。
「……で、でも、この島で私の演奏を聴いてくれて、良かったと言った人はスアさんが初めてだったから。……新しい曲なら聴いてくれるかなって、練習してた」
「うーん。初めて会う人に自分の演奏を聴いてもらうのは、なかなか難しそうですね~」
スアはあごに握りこぶしをあてて考えます。ハトの気持ちはとても純粋で、聞いている自分も思わずうんうんとうなずきたくなってしまいます。しかし、ハトは真剣に聞いてきています。それでは悩みの解決に至らないでしょう。
「良い演奏なら、私が頑張って歌と、ギターを練習して、皆に届けられたら……」
ハトがぼそっと呟きます。スアは自分が話を聞いてもらいたいときはどうするか、考え、そしてぽんと手を打ち、ハトの目を見て話し始めます。
「ハトさんはどうして、ギターシンガーになろうと思ったんですか?」
「中学生のとき、双子の弟と一緒にデュエットで歌って、それから気の合う仲間とバンド組んでたんだけど、えっと、音楽性の違いで解散しちゃって、それで――」
「ハトさんは、仲間とバンドをしていたとき、どんな気持ちでしたか?
「えっ? ただがむしゃらに自分の音楽を奏でるのが楽しくて……」
「確かに自分の音楽をすることは楽しいです。私もつい好きな本について語ってしまうこともあります」
スアはちょっとした失敗談、おススメの童話を聞かれて、自分の好きなものを長々と話してしまったことを語ります。
「ですが、本当に人の意識を変えたいなら、相手の気持ちを考えないといけないってきづいたんです」
「……相手の気持ちを、考える」
「はい。ですが――、いえなんでもないです。私は、ハトさんならきっとできると思いますよ~」
たとえ、心の中が覗けても、相手の本当の気持ちなど分からない――。そんな言葉をスアは飲み込みます。
「相手の気持ちを考えて、自分の伝えたいこと……。うん。なにか思いついたかも」
スアの方も見ず、ハトはいそいそとアンプとギターを片付け、代わりに譜面台に紙を乗せ、何かを書き始めます。なんだろうと譜面を覗き込もうとしたスアに気づいたハトが慌ててそれを手で隠そうとします。
「ス、スアさんは見ないで! それと、楽しみにしてて……?」
「はい~。・それじゃあまた聞かせてくださいね~」
スアは何かを察してハトの下を離れます。スアはさっきまでのハトの歌を鼻歌で歌いつつ、自分の部屋に戻っていきました。そして、ハトの歌を聴くことなく、「実験」に参加させられてしまいました。
ルミア島で行われる「実験」とは、最後の一人になるまで実験体を殺し合わせることです。実験体は何度も何度もこの実験に参加させられ、死ぬたびにルミア島に来た直後まで記憶を戻されてしまいます。例え、それを望んでいなくても。
今回の実験ではたまたまスアとハトが最後の二人になったようです。そんな二人が出会った場所は学校。二人は互いの姿を見ると何もせず立ち止まってしまいます。ちょっと経ち、ハトがスアの方までタタタッと駆け寄ります。その目から涙が流れ落ちています。
「スアさん! わたし、わたしはみんなの殺し合いを止められなかった……! みんなのことを考えても……だから」
スアがハトの持っている武器、魔法ステッキに目を向けると、それは血が滲んでいます。スアは泣いてへたりと座り込むハトの頭をゆっくり撫でながら、少し微笑み。
「大丈夫ですよ。ハトさんは少なくとも一人、私の意志を変えたんです。こんな殺し合いはしちゃだめだって。だから……」
泣かないで。泣いているあなたを見ると私まで泣きたくなっちゃうから。そんな言葉を飲み込みます。ハトにそのようなことを言っても、ハトの気持ちを抑えてしまうだけですから。
スアもハトの後悔と、無力さを感じ、目を抑えて思わず後ろに一歩、ここから逃げようと足を踏み出してしまいます。ですが、逃げ出したって何も変わりません。スアはハトを撫でる手を止め、精いっぱいの笑顔を浮かべハトの目を見ます。
「ハトさん、歌を、歌いましょう」
ハトは手の甲で目頭をぬぐって立ち上がります。
「わたし、スアさんのことを思って詩を書いてた。まだ全然できてないけど、聴いて?」
はいっとスアが応えるとハトは目をつむって、胸に手を当て声だけで歌い出します。
――ある町の小さな図書館♪
そんなハトに気づかれないよう、本をそっと置き、ハトから距離をとります。そして、拾ったトラップであるC4を仕掛け、スイッチに手を添えます。
「ハトさんならきっと、みんなを平和にする歌を歌えます。……私とはちがって」
小さな声で呟き、スイッチを押します。ドーンという爆音と煙に包まれスアの体は消えてしまいました。
爆音に気づいたハトは全身がびくっとなり、目を大きく見開きます。そこには一冊の本と、煙がまっすぐとのぼる光景しか残っていませんでした。
「あっ、わたし、またやっちゃった」
乾いた笑みを浮かべ、へたりと座り込みます。目についたのは残されていた本のタイトル、『発声に繋がる喉のケア』。タイトルを指でなぞり
「もう、私の演奏を聴いてくれる人がいない」
その言葉は何の音もしない空へと消えていきました。
「ふぅ~。電灯の光ばっかり浴びてると、なんだか疲れてしまいますね~」
実験が終わり、記憶処理が施された翌日。窓がない自分の部屋でスアはそう呟きつつ立ち上がり、適当な本を手に取りドアノブに手をかけます。そんなスアの行動を見計らっていたように、ドアの外では担当の研究員が待っていました。
「17M-RFT32、スア。ちょっといいか」
「はい。ですが、今日は何もなかったはずでは?」
「その通りだが。……お前はお前は、人間の心、考えが音楽の力で変えられると思っているのか?」
「変えられると思いますよ~。だって、有名な人のライブとかにたくさんの人が集まっているじゃないですか~。それは音楽とか、歌手さんに共感したのだと思います」
「そうだと、いいな」
ふっと研究員は笑います。それはスアの言葉をまるっきり信じていない、馬鹿にした感じでしたが、同時にちょっとだけそれを期待しているようなものでもありました。
「散歩に行くなら学校に行くといい。きっとお前を待っている者がいるはずだ」
「……? 私を待っている人ですか? はあ。ありがとうございます」
スアはちょこんと頭を下げ、学校へ足を運びます。
ルミア島は今日も晴天。学校へ行くとハトがギターの練習をしていました。エレキギターではなく、アコースティックギターでいつもより優しい曲を奏でています。スアはこの人のことかな? と思いましたが、邪魔したくないと声をかけずベンチに座り本を開きました。
やがて、橙色に染まる空の下、ようやく演奏を止めたハトがあたりを見回すと、書に没頭しているスアを見つけました。ハトは憑りつかれたかのようにスアの下へ走ります。
「あのっ! もしよかったらわたしの歌を聴いてほしいの!」
ハトはスアに対して想いを吐き出すように叫びます。その言葉にスアはバタバタっと本を閉じ、全身をびくっとさせ、顔をあげます。ハトもまた、自分の思いがけない大きな声にびっくりしているようです。ですが、ハトはスアの顔をしっかり見て返事を待ちます。
「わっ、えーっと、はいっ。お、お願いします?」
「ありがとう。それじゃあ聴いてください」
ハトはスアから目を離さず歌い始めます。
――ある町の小さな図書館
胸の大きな司書さんに今日も僕は会いに行く。
「どのような本をお探しですか?」
にこにこしながら微笑むあなたに僕はいつもの様に言うのです
「あなたの選んだ本がよみたい」――♪
「~~♪」ハトは語り掛けるように歌います。いつもの歌とは違い、心に深く、染み渡るように。
スアはぼーっと、ほうけたように聴き入ります。やがて曲が終わり、ハトがいつもの小さな声でスアに問いかけます。
「あの……。いきなりでごめんなさい。でも、ある日起きたらこんな詩があって、それで通気を書いて、練習してて、そしたら詩の女の人みたいな人があなたで、それでどうしても聴いてもらいたくて」
要領を得ない説明でしたが、それでも必死に伝えようとするハトに、スアもちょっと間があってから、口を開きます。
「あの、えっと、私のための曲なんですか?」
「ううん。でも、あなたにこれを伝えなくちゃって思ったんです」
「あ、ありがとうございます。……私も実は」
スアは持っている本のタイトル『発声に繋がる喉のケア』を指さします。
「なぜか、あなたに紹介したい本を持っていて……不思議ですね」
「そう、ですね。……わたしの歌はどうでした?」
「はいっ。えっと、こう、とても心に染み渡る優しい歌で、その。……とにかく私からも素敵な曲のお礼がしたいです。この本を読みましょう」
スアは珍しく自分の気持ちを言葉で表現できないようです。ハトはスアの言うことを受け入れて、となりに座って本を見ようとします。
それは空が完全に暗くなるまでずーっと続きました。
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。モチベがあればまた何か書くかもしれません。
6000字もいってないようなもので長々としたあとがきなんかいらねーと思うけどそれはともかく書きたいので白文字あとがき。昔はこんなの流行ってた気がする。
この起承転結テンプレート非常に描きやすいです。一部文章とか流用してますし。次回も多分こんな感じで彰一に裏切られて死ぬスアちゃんか、バニスに射殺されるスアちゃんか、ナディンに射抜かれるスアちゃんになるかもしれません。スア殺してばっか。
この創作については「人を変えられる言葉の力について」を一応テーマにしています。ハトは自分の考えを表現すれば変えられる。スアは相手に共感して適切な言葉を導く。研究員はそんなものは存在しないと思うが、あったらロマンがある。とそれぞれ思っているのかなーと。あとは自分のスアちゃんはなんでも感動するタイプの子かなーって思ってます。あと実験日誌見る限り自己評価低そう。いつか「共感しすぎて他人の事を自分の様に思ってしまう」という設定活かしたいんですが、なかなか……