かいてんのブラサバブログ

Black Survival(ブラサバ)についてのんびり書いていきます。

スアとシセラと青い鳥

今回はブラサバの二次創作となります。

17M-RFT27、シセラと17M-RFT33、スアを中心にダラダラ描いたものです。一部実験日誌のネタバレがあります。

途中で出てくる『青い鳥』の解釈や実験背景、ルミア島の背景などが違っていたらごめんなさい。

 

 

 

「ふぅ~。最近は、なんだか難しい研究資料や、よくわからない神経の本ばかり読んでて疲れました……。少しお散歩でもしてみましょうか」

 

 そんなひとりごとを呟きながら、実験体番号17M-RFT33、スアは自分の部屋の扉に手をかけ、ゆっくりと押しました。もう一方の手にはもう何度も読み返した冒険小説。どのページにどんな内容が書いてあるか、彼女は覚えてしまっていますが、この島、「ルミア島」ではなかなか娯楽小説が手に入らないのです。ですが彼女は気にしません。ゆっくりとした時間を書とともに過ごすことは、彼女の今の生活で大切な時間の一つですから。

 

 よく晴れた日の午後、ぽかぽかした陽気の中、彼女は本を読む最適な場所を探し始めました。港では釣り人が糸を垂らし、池では水泳選手が練習しています。そんな彼らを邪魔したくないと、彼女は静かに去りました。やがて彼女はぽんっ、と手を打つと、学校に足を運びました。寂れた校庭には誰も居ません。学校を独り占めした気分になった彼女は、上機嫌にベンチに腰を下ろそうとしました。ですが、

 

「あら……? なんでしょう。この顔は?」

 

 彼女はベンチにペンで描かれた、小さな似顔絵を見つけました。

 

「とてもかわいらしい顔ですね。誰かのいたずら書きですかね」

 

 彼女が落書きを指でなぞろうとしたそのとき、

 

「…………触らないで」

 

 どこから現れたのでしょう。実験体番号17M-RFT27、シセラがスアの手を取り、落書きから離そうとします。ですが、あまりに力が弱弱しいのか、スアの手はほとんど動いていません。それでもスアはシセラの手の動きに合わせて似顔絵から手を離しました。

 

「あなたは……。確か、シセラさん、でしたっけ」

 

「…………」

 

 スアの問いかけを無視しつつ、シセラはベンチに描かれた似顔絵に目を向けます。それが変わりないことを確かめて、ほっと一息。そしてスアに向き直り一言。

 

「…………ウィルソンに触らないで」

 

「ウィルソンってこのお顔の事ですか? なんだかかわいらしいです~」

 

「…………」

 

あっちょっと、待ってください~」

 

 スアがウィルソンを消さないことだけ確かめると、シセラは点滴を支えにゆっくりと校庭を去ろうとします。その姿はとても弱弱しく、歩けるのが不思議なほどでした。スアはシセラを追いかけようとしますが、はっと、何かに気づいたのか立ち止まってしまいました。

 

「あれ……私、何も、感じない……。どうして?」

 

 スアは相手に共感できる力、いや、異常な能力を持っていました。スアはそれに悩み、苦しみながらもその力を使っていろんな人を助けてきました。そんな彼女ですから、シセラのことも助けてあげたいと思ったのでしょう。

 

「私、どうしてしまったんでしょう。あの子の気持ちが、何もわからないなんて……」

 

 スアはいつもなら書に没頭しつつ、考え事をしますが、この日はぼーっと空を見上げ、何もせず、ただひたすらに時が流れるのを待っていました。

 

 スアは、青空が夜空になるまでずーっと、そうしていました。

 

 

 

 

 翌日、スアは自分の担当である研究員を捕まえて、こう尋ねました

 

「あの、シセラさんってどこに住んでいらっしゃいますか?」

 

 研究員は少し困った顔をしつつも、スアに教えてくれました。

 

「ああ、17M-RFT27ならこの棟とは別の研究棟で過ごしている。入院みたいなものだな」

 

「入院……ですか。私が昨日会ったときも、点滴を肌身離さず持ち歩いていました。どこか悪いんでしょうか」

 

「そりゃ、入院しているから当たり前だろう。私は詳しくわからないが、どうやら世界に100人しかいない難病らしい。それより、会うのは構わないが、私としてはあまりお勧めしないがね」

 

「どうしてですか?」

 

「君も一度会ったことがあるのだろう? なら、君自身が一番よく分かるはずだ」

 

 スアは自分の胸に手を当て、昨日のことを思い出します。シセラに会い、いつもなら共感が生まれる自分の感情が、そこにはなかったことを。

 

「……はい。忠告ありがとうございます。そういえば、今日は何をするんですか?」

 

「今日は経過観察、つまり何もしない。自由にするいい」

 

「わかりました。それでは、失礼しますね」

 

 きちっと頭を下げ、スアは研究員のもとを立ち去ります。少し迷った様子でしたが、ぐっとこぶしを作り、手に持った本――『青い鳥』をちらっと見て、シセラがいる研究棟に向かって歩き始めました。

 

「ふぅ~。ここですね。シセラさんの病室は」

 

 途中研究員に道を尋ねながら、なんとか目的の場所にたどり着いたスア。コンコンコンとノックをしても返事がありません。少し待って、もう一回。またもや返事は帰ってきません。もし寝てるなら、起こすのもマズイ。もっと時間を置こうと、スアは壁にもたれかかり、持ってきた本を開いた途端、小さな音を立てて扉が開きました。

 

「…………誰、ですか」

 

「はい。私です。クォン・スアっていいます。今日はえっと……」

 

 スアは苦笑い。だって何をするのか考えておらず、ただ会わなきゃと思いここまで来たのですから。ですが、こんなことで彼女はへこたれません。ぽんっと手を打ち、シセラの目の前に自分の持っていた本の表紙――『青い鳥』を見せました。

 

 

「この本を一緒に読みたいなって思ったんです。よければどうですか?」

 

 スアの提案を受けて、シセラは考えます。今日もやることは特にない。この人は悪い人では……きっとないだろう。本を読むのは偶には悪くない、と。やがて小さく口を開き、

 

「…………どうぞ」

 

 とスアを手招きしました。スアは、ありがとうございます。それじゃあお邪魔しますね、と添えつつシセラの病室に入りました。病室には大き目なベット、備え付けられた小さなテーブル。窓がなく、無機質な電灯の光が余計に淋しさを増しています。

 

 シセラは点滴をカラカラと動かしながら、音もたてずにベッドに座りました。スアはきょろきょろと部屋を見回し、隅っこに丸椅子を見つけると、パッパッとほこりを払い、ベッドの隣まで運んで座りました。

 

「シセラさんは『青い鳥』を読んだことがありますか?」

 

 シセラはゆっくりと首を横に振ります。

 

「よかったー。それじゃあ、頭から読みましょうか。めくるのが早かったら言ってくださいね」

 

 シセラは何も言いません。スアはそれをイエスと捉えて、表紙をめくりました。

 

『青い鳥』は貧しい二人の子どもがおばあさんに頼まれて、幸せの青い鳥を捕まえに様々な世界を旅するおはなしです。

 

 二人の子どもはたくさんの世界を回ります。青い鳥を捕まえることができずに、現世へと帰ってきた場面でスアが本をめくろうとすると、シセラの手が紙を抑えようとします。スアはハッとシセラの顔を見ますが、シセラの目は文章を追っているようでした。スアはその目が止まるまでちょっとだけ待ってから、次のページをめくります。

 

 やがておはなしも終わりへと近づきます。子供たちは結局青い鳥を捕まえることができませんでしたが、家で飼っている茶色い鳥が、青い鳥へと変わっていき、歓喜の声が上がる場面でおはなしが終わります。シセラが読み終わったことを確かめてから、スアは口を開きます。

 

「これで、このお話は終わりです。幸せの青い鳥は身近にあるものなんですね~」

 

『青い鳥』の一般的な解釈を話すスア。しかし、シセラはそうは思わなかったようです。

 

「…………身近な青い鳥は、茶色い鳥に変わってしまうもの」

 

「……? それって幸せが離れていくってことですか?」

 

 シセラは少しだけ頷きます。その目はスアを見ているようで、他の人の事を考えているようでした。

 

 そのときチクっとスアの心に痛みが走ります。それはこの日初めて感じる痛みです。ああ、この子はきっと悲しんでいるんだ。と彼女は思います。だって、まだ図書館で働いていたころ、悲しんでいる人たちに何度も何度も共感し、この気持ちを抱いてきたのですから。彼女は胸に手を当て、一息つき、もう一度気持ちを確かめると、本をぱらぱらとめくります。

 

「実はですね。このおはなしには少し続きがありまして――」

 

 目的のページを見つけ、シセラに見せようとしたとき、突然スピーカーから音声が流れます。

 

『――実験を開始します。外に出ている者は今すぐ部屋に戻りなさい。繰り返す。外に出ている者は――』

 

「あら、では続きは今度。またお会いしましょうね」

 

 アナウンスを受けスアは立ち上がり、丸イスを片付けようとします。

 

「…………待って。これ、しおりに使って」

 

 突然、シセラが声を上げ、小さなテーブルに置かれてあった押し花を手渡します。どうやら手作りのようです。スアは手を止めゆっくりとシセラに振り返り微笑みます。

 

「ありがとうございます。これ、大事にしますね」

 

 シセラはほんの少し表情が変わります。それが嬉しいのか、悲しいのか、スアにはわかりません。ですが、そんなシセラを見て、今回の出会いはムダじゃなかったとスアは思います。最後に一礼してスアが退出した後、シセラは虚空に向かって一言。

 

「…………お母さん」

 

 その言葉はただただ部屋の中に響くだけでした。

 

 

 

 

 ルミア島で行われる「実験」とは、最後の一人になるまで実験体を殺し合わせることです。実験体は何度も何度もこの実験に参加させられ、死ぬたびにルミア島に来た直後まで記憶を戻されてしまいます。例え、それを望んでいなくても。

 

 今回の実験ではたまたまスアとシセラが最後の二人になったようです。そんな二人が出会った場所は学校、互いの姿を見た瞬間、反射的に武器を構えます。だって、そうしないと殺されるのですから。しかし、二人は武器を下ろしてしまいました。

 

「シセラ、さん」     「…………スア……さん」

 

 二人はしばらく無言で見つめ合います。初めて二人が会った校庭で。風がびゅうっと吹き抜ける音がはっきり聞こえるほど、沈黙が続きます。やがて、スアが重い口を開きます。

 

「シセラさん。私は『青い鳥』に続きがあると言いましたよね」

 

「…………」

 

「青い鳥は幸せを運びました。不思議な力でお隣さんの足を治したりと。子どもたちはそんな青い鳥のおかげで幸せな時間を過ごせました。ですが、あるとき青い鳥が飛び去ってしまうんです」

 

「…………いなくなった」

 

「はい。そしたら子どもたちは青い鳥がいない生活を想像できなくなったんです。まるで、青い鳥がいない生活は不幸だ。と言わんばかりに」

 

 スアはリュックから1本の錐を取り出します。それは誰も殺せなさそうな、粗末な物でした。

 

「私は思うんです。幸せの青い鳥はときに去ってしまうかもしれません。ですが、青い鳥は一羽でなく、たくさんいるんだ。と」

 

「…………」

 

「幸せの形は一つじゃないんです。例え家族と仲が悪くても、他の場所で幸せを見つければいい。この世界にはたくさんの幸せにあふれている……と私は信じてます」

 

 スアは粗末な錐をゆっくりと頭上まで持ち上げます。

 

「私は、あなたの『青い鳥』になりたかった……せめて、最期だけでも」

 

「スアさん!」

 

 スアは錐を自分の大きな胸に突き刺します。ポタポタと鮮血が地面に垂れ落ちますが、スアは必死に笑顔を保ち、駆け寄ってくるシセラに向かって微笑みます。

 

「ごめん……な、……さい……」

 

 シセラがスアのそばまで来たときには、もう、スアは動きませんでした。 ただ、せいいっぱいの笑顔を浮かべて。

 

 シセラはスアのそばにへたりこみます。顔をひとなで。まだ熱が残っています。シセラはスアが持っていたリュックからある本――『青い鳥』が顔をのぞかせているのに気づきます。シセラはそれを手に取り、ぱらっとめくると、ある部分で止まってしまいます。それはシセラが贈った押し花が、しおりとして挟んであるページでした。そこにはスアの手書きで書かれた一言が添えられていました。

 

――私は、シセラさんの「青い鳥」になれるのでしょうか

 

 シセラはその文字を指でなぞり、呟きます。

 

「…………スアさんは、私の――」

 

 空には一羽の鳥が、大きく羽ばたいていました。

 

 

 

 

「ふぅ~。最近は、なんだか難しい研究資料や、よくわからない神経の本ばかり読んでて疲れました……。もっと楽しい本をよみたいものです」

 

 スアは自分の頭に関する実験から帰ってきました。どうやら難しい本ばかり読んでお疲れの様子。

 

「たまにはもう一度読み直してみましょうかね」

 

 スアが本を、『青い鳥』を手に取ろうとしたとき、ある押し花のしおりが目につきました。身に覚えがないものだと思いつつ、はさんであるページを開きました。そこには『青い鳥』の本当の結末を書いた箇所ですが、それより、ある手書きの文字が。

 

――私は、シセラさんの「青い鳥」になれるのでしょうか。

 

「なんでしょう? これは。……ですが、シセラさんという方にお会いしてこの押し花について聞いてみましょうか」

 

 不思議なことに、スアはシセラという人を知っているような、そんな気がしました。どんな人が思い出せはしないんですが。

 

 しかし、スアはシセラがどこに居るかわかりません。なので研究員に聞いてみましょう。きっと知っているはずですから。

 

「シセラ? ああ、実験体番号17M-RFT27のことか。……なぜそいつのことを?」

 

「えっ? うーん。ただ、会わなきゃって思ったんです」

 

「会わなきゃか……。まあいい。17M-RFT27ならこの棟とは別の研究棟で過ごしている。入院みたいなものだな。今日はもうお前に用事はない。好きにするといい」

 

「ありがとうございます。それでは、失礼しますね」

 

 きちっと頭を下げ、スアは研究員のもとを立ち去ります。手に持った本――『青い鳥』をちらっと見て、シセラがいる研究棟に向かって歩き始めました。

 

 不思議と一発で目的の場所にたどり着いたスア。コンコンコンとノックをしても返事がありません。ちょっとだけ待つと、小さな音を立てて扉が開きました。

 

「…………誰、ですか」

 

「はい。私です。クォン・スアっていいます。今日はえっと……」

 

 スアは苦笑い。だってただただ会いたいと思っただけですから。ですが、こんなことで彼女はへこたれません。ぽんっと手を打ち、シセラの目の前に自分の持っていた本の表紙――『青い鳥』を見せました。

 

「この本を一緒に読みたいなって思ったんです。よければどうですか?」

 

 スアの提案を受けて、シセラはスアが持っている本を見ます。そこには押し花で作られたしおりがはさんでありました。シセラは考えます。アレは自分で作った押し花によく似ている。なんだか、安心できる人だな、と。

 

「…………どうぞ」

 

 とスアを手招きしました。スアは、ありがとうございます。それじゃあお邪魔しますね、と添えつつシセラの病室に入りました。大き目なベット、備え付けられた小さなテーブル。窓がなく、無機質な電灯の光が余計に淋しさを増しています。スアは隅っこにあった丸イスを運んでベッドのそばに座り、『青い鳥』を開きました。

 

「シセラさんは『青い鳥』を読んだことがありますか?」

 

「…………多分、ない。と思う」

 

「よかったー。それじゃあ、頭から読みましょうか。めくるのが早かったら言ってくださいね」

 

 やがて、『青い鳥』を読み終わり、本をぱたっと閉じてスアは口を開きます。

 

「これで、このお話は終わりです、幸せの青い鳥は身近にあるものなんですね~」

 

『青い鳥』の一般的な解釈を話すスア。しかし、シセラはそうは思わなかったようです。

 

「…………身近な青い鳥は、茶色い鳥に変わってしまうもの」

 

「……? それって幸せが離れていくってことですか?」

 

 シセラは少しだけ頷きます。その目はスアを見ているようで、今、そこにいるスアを見ていないようでした。

 

 そのときチクっとスアの心に痛みが走ります。それはこの日初めて感じる痛みです。ああ、この子はきっと悲しんでいるんだ。と彼女は思います。だって、まだ図書館で働いていたころ、悲しんでいる人たちに何度も何度も共感し、この気持ちを抱いてきたのですから。と、同時にスアは手書きで書かれた言葉を思い出します。ああ、私はこの子を助けたいと思ったのでしょう。いつ、どこでそう思ったかはわからないけど。

 

「私は、ひとつの幸せが離れても、また別の幸せを見つければいい、と思うんです。だって、この世界には幸せがいっぱいあるんですから」

 

 シセラは首を横に振ろうとします、ですが寸のところで思いとどまります。なぜだか、一度去った青い鳥がもう一度、戻ってきた。そんな光景が頭の中で思い浮かんだのですから。

 

 スアは部屋にある時計を見て、そろそろ夕食の時間だなーと思いつつシセラに向かって微笑みます。

 

「そろそろ時間ですね~。またこちらに来てもいいですか?」

 

 シセラはまだ何かを考えているようですが、スアはその沈黙を肯定と受け取ったようです。スアが丸イスから立ち上がろうとしたとき、

 

「行かないで!」

 

 シセラは彼女のせいいっぱいの声を上げ、スアの手を取り、引き留めようとします。シセラはなぜ、こんな声が出たのか、手を取ったのか、わかりません。でも、そうしないと永遠に会えないような気がしたのです。スアはシセラの声に体をびくっとさせ、振り返るともう一度丸イスに座りました。

 

「はいっ。シセラさんがいいなら私はここにいますよ。それより、何をしましょうか~」

 

 シセラは部屋をきょろきょろ見回し、トランプを手に取って。

 

「…………ポーカー、しませんか」

 

「ポーカーですか? いいですよ~。私、ポーカー結構得意なんですよー」

 

 シセラはちょっと、ほっとした様子でトランプを切り始めます。二人の間には少しだけのどかな時間が流れていました。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 ここまで読んでくださりありがとうございました。童話っぽいお話を目指しましたが、文章力的に厳しかったですね。暇つぶしになれたら幸いです。

 

 気が向いたらこんな感じの話を別キャラ(多分ハト)で書くかもしれません。