レオンとElevenとガーデニング
今回は二次創作となります。タイトル通りレオンとElevenのお話です。ややシリアスかも。
~プロローグ~
「ねぇねぇアスキンさん! お花畑に興味ない???」
「誰だ? ……Elevenか。アスキンじゃなくてレオンでいいぞ」
レオンが日課としている鍛錬を終えて部屋に戻ろうとすると、Elevenが待ってましたとばかりに姿を現した。
「うん! 夏 紫萱、略してElevenだよー」
「省略要素がどこにあったか教えてほしいな」
「それじゃあお花畑に興味があるってことでいいんだよね?」
「いきなり飛んだな。……花といったらウィリアムがいいんじゃないのか?」
「ベンソンのお兄さんは『ふっ、生憎俺は今の花壇の手入れで手一杯だ。レオンに頼めば聴いてくれるんじゃないか』って言ってた!」
「体のいい厄介払いとかいうやつだろそれ。……そういえば、確かその花畑は手入れしている研究員が居たんじゃないのか?」
「流石レオンさん鋭いね! その研究員の人から『だるい』って頼まれたんだ~」
「言語効率が良すぎる」
「私一人じゃよく分かんないから誰かいい人が居ないかなって」
「Elevenなら俺以外にも人づてがありそうだが……。俺もできないことはないからな。誰も居ないならいいぞ」
「やったー! それじゃあ、明日の11時に学校で集合ね!」
「その言葉だけ聞いたらまるで学生みたいだな」
「アタシ、本来なら高校生だよ~?」
それじゃっ! と離れていったEleven。レオンはその姿が十分見えなくなるまで待った後、自分の部屋に入る。そこにはファンシーに彩られた部屋にぬいぐるみやかわいい花などが沢山飾られてあった。
「花、か。久しぶりだな」
レオンはそう呟くと、自身の記憶にある花の手入れを思い出していた。
~次の日~
「えへへっ、待った?」
Elevenは普段のスカートではなく、ジーパンを履き動きやすい服装でレオンの方に駆け寄ってくる。
「ずっと向こうからぴょこぴょこ跳ねるアホ毛が見えたから退屈しなかったぞ」
待っていたレオンは土で汚れてもいいようエプロンをしており、準備万端な格好だ。
「ウサギみたいなのはアタシじゃなくて莉央ちゃんだよ!」
「どこかだよ。まさか髪色だけじゃないよな?」
「寂しくて丸まってそうなとこ!」
「お前がアイツをどう思ってるのかよく分かったよ」
二人が喋りつつ、花畑の方へ近づくと、10m四方に色とりどりの花が乱雑に咲いていた。
「うわ~。一面にいっぱい咲いてるね~」
「これはコスモスか? 季節外れだろうにどうやって咲かせてるんだ」
もうそろそろ雪が降ってもおかしくない季節。少し肌寒さを感じつつ二人は花畑をぐるりと回る。
「うーん、この島不思議なことだらけだし、実験にでも使ってるんじゃない?」
「生態系を曲げるような実験か。何に使っているんだろうな」
「ほら、永遠に咲く花とか需要ありそうじゃん! 永遠の命!」
「命に限りがあるから頑張るんだろ。人間も花もそこは変わらん」
「おおー。なんだかカッコいいね! さすがスポーツ選手!」
「それ、関係あるか? とにかく、こんなに咲いてちゃ栄養や光が行き渡らん。ある程度間引して別の花畑でも作ったほうがいいな」
空間を埋め尽くすように咲いているコスモスは、互いが花の主張をしあって窮屈そうに咲いている。
「ええー。せっかく咲いてるのに、もったいないー」
「この咲っぷりなら植え替えが向いていないコスモスといえど、多分育つだろ。花畑を広げるためにやるから勿体なくはない」
Elevenはそんなものかと思いなおし、持っていたカメラを構える。
「わかった! それじゃあ早速放送開始だね!」
「仮に放送できたとしても、売れるか? その放送」
「イケメンと美女がいるだけで売れるもんだよ?」
「自分で言うかそれ」
「だってアタシかわいいし! そう思うよね?」
Elevenがレオンの方を向き、首をかしげると、花たちが同意するかのように大きく揺れる。
「おい、今この花が動いたぞ? というか自分のことをかわいいとか言う奴は信用しちゃいけない」
花はまるで統率された軍隊の様に1ミリも揺れない。
「えー。女の子はかわいいって思うほどかわいくなるんだよ??? ほらっ! 今もお花がめちゃ揺れてる!」
「おかしくないか? なあ、おかしくないか?」
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「それじゃ、土づくりでも始めるか。最初は倉庫に行くぞ」
奇妙な花をとりあえず無視して、花の管理に使われていたであろう倉庫の方に二人は歩き出した。
「土づくりってアタシ、やったことないけど、どんなものが必要なの?」
「まずは肥料、腐葉土やら堆肥やら培養土やらがあるといい。あとはスコップと、花壇の区別をつけるためのレンガがあったらうれしいな」
「レンガかー。確かにあれば雰囲気でそうだね!」
「なければ誰かが踏んづけることもある。ジャッキーとかは確実にそうだ」
「かわいいお花を守るためには必要なのだー」
そんな会話をしつつ二人が倉庫にたどり着き扉を開けると、乱雑に積み上げられた物が埃を被っていた。
「おー。意外とそろってるんだな。使われた形跡が全然ないが」
「軍手とかスコップとか肥料? もいっぱいあるけど何を使うの?」
「とりあえずスコップ、あとは軍手だ。スコップは大きさ違うのも持ってくれ。俺は肥料を少し運んでおくとするか。」
ドサッと音を立て肥料を持ちやすいよう積み上げたレオンは、150L分ぐらいの肥料を軽々と持ち上げる。
「わっ、そんなに大量の肥料を一度に運べるなんてレオンさんすごいねー」
「力仕事は男の役割だ。後、土は水より重くないからな。案外軽いぞ?」
持ってみろとばかりにレオンは一つ肥料を地面に降ろす。Elevenがそれを持ちあげようとする……が、持ちあげるどころか動きすらしない。
「どれどれ~。……重いじゃん! レオンさんの嘘つき!」
「ははは。意外と貧弱だなEleven。それならElevenは小道具を運んでくれ。あとレンガみたいな仕切りは見つかったか?」
Elevenがスコップやら軍手やらを置いてもう一度倉庫を見回る。すると、奥からよく通るElevenの声が聞こえてくる。
「あったよー」
「おっ、できるなら細かい大きさだと助かるんだが、どんなもんだったか?」
「んっとねー、ガードレール!」
「もし仕切りにしたら見る奴全てが疑問に思うだろそれ……」
二人が倉庫から帰ってくると、花たちがElevenの方に向かってお辞儀をするように揺れる。
「なんかムカつくなこの花ども……」
ちなみにレオンの方に向かっては一切反応しない。
「わっ、やっぱり意志があるんじゃないかな~?」
「ともかく、土づくりの開始だ。広さは……あのコスモス畑の半分より少ないぐらいでいいか」
「土づくりって具体的には何するの?」
「まずは雑草抜きだ。そのあと土全体を30cmくらい掘り起こす。その土から根やら石やらを抜いて、肥料を加え元の土と混ぜ合わせて寝かせるって感じだな」
「うううーん。結構大変そう」
言葉とは裏腹に、Elevenの表情は期待に満ち溢れている。それが土づくりを楽しみにしているのか、それともレオンと作業できるのが楽しみなのか、判断はつかない。
「花も人間も基礎が大事だぞ。花にとって土は命の土台だ。生半可じゃいかん」
「うん! レオンさんも鍛えてるからあんなに重いもの持てるんだね!」
「ありがとな。ともかく、雑草抜きだ」
「うん!」
勢いよく返事をしたElevenは適当にしゃがみ、雑草をブチっと引きちぎる。
「雑草抜きは根まで引き抜かないと意味がないぞ」
「あれ? でもアタシ、学校では根まで引き抜けーって習ったけど、使用人さんとかは草の部分だけ刈ってたよ?」
「それは景観のためじゃないか? 今みたいに土をしっかり作るときはだめだ。根から引きぬかないと雑草が栄養を吸って、肝心の花が育たなくなる」
「わかった! 今度はちゃんと根まで引き抜くね!」
スコップも使うといいぞー。なんてレオンが声をかけつつ、Elevenはもう一度雑草を抜こうとする。雑草の根元にスコップを入れたが角度が悪く土を掘り返せない。やや躊躇してElevenが土にひざを付け力を込めやすくしたが、硬い土にスコップが中々入らない。
レオンが雑草を5本くらい抜いた後、ふとElevenの方を見ると、明らかに土いじりに慣れていないElevenがそこには居た。
「Eleven。手だけで土を掘り返すのが難しいなら、体全体、特に足に力を入れるといい。手より足の方が力は強いしな」
はーい。とElevenが元気よく返事を返すと、ペースは遅いが徐々に雑草を抜けていく。一方レオンは手慣れた手つきで次々と引き抜いていく。
「レオンさんはやーい。なんでそんなにうまくできるの?」
Elevenが手を止めて純粋な疑問を口に出すと、レオンは、自分が花の手入れを慣れていることをバレたくないのか、誤魔化すように返事をする。
「あー。…………慣れだ」
「慣れか―。アタシも頑張らないと!」
Elevenはレオンの逡巡を何も気にせず、雑草を抜き続けた。やがて、抜いた雑草がバケツ一杯になったと同時にElevenがぐいっと立ち上がると、ちょうどレオンが1.5Lの水筒を3本持ってきていた。
「さっすがー、モテる男は気遣いができるね!」
「あいにく、このサイズの飲料水しかなかったがな」
「おかげでスタミナが回復しそうだよ! 33くらい!」
「随分と具体的な上に回復量がしょっぱいぞ」
Elevenは水筒についてあったコップを使ってゆっくりと水を飲む。対してレオンはラッパ飲みで一気に半分くらい飲み干す。
「とりあえず今日全部やらなくてもいいか。Eleven。ある程度の草抜きが終わったら俺が土を掘り起こす。Elevenは掘った土から根やら石やらを取り除いてくれ」
「やったことないけど、きっとできるよ!」
雑談を交えつつ、レオンは持ってきたスコップで土を掘り起こす。Elevenはレオンが掘っている傍に座り、丁寧に根や石を除去している。
1/3くらい掘り起こしたところでレオンが手を止める。これ以上はまだ雑草抜きが終わっていないからだ。レオンがElevenをふと見ると、疲れているのか徐々に分別のペースが遅くなっている。と、同時にElevenの雰囲気も落ち着いてきていたようにレオンは感じた。
「今日はここまでだな。結構進んだからあと2,3日もしたら土づくりが終わるんじゃないか?」
「ううーん。結構疲れたけど、レオンさんが一緒だったからよかった!」
「そういえばElevenからの依頼だったな。めんどうだったら――」
「そんなことないよ! 次は明日でいい? それじゃっ!」
あとは俺だけでと続けようとしたレオンだったが、Elevenが有無を言わせず会話を打ち切った。
「騒がしいやつだな」
レオンがそう呟き空を見ると、夕焼けが徐々に紫色へと染まっていた。
土づくりが終わっていよいよ植え替えの日。いつもの時間に集まった二人、正確にはElevenだけが花の歓迎を受けている。
「にしても、雑草とか全然生えていないな。全部この花が栄養を吸い尽くしてるんじゃないのか?」
「雑草が生えていないお花畑なんて、そんなに珍しいの?」
「おれはよく行く……あまり見たことはないが、ふつうはもうちょっと雑草やらが生えているもんだ。こんな花ばっかり、よく見たらコスモス以外の品種もあるな」
せっかくだし植木鉢で管理するかと花の種類を見分けようとしたレオンにElevenがいろんな花を指さしている。
「これとか?」
「それはポピーだ。ひらひらとした赤い花びらが特徴だ」
「これは?」
「彼岸花だな。昔は土葬された遺体を守るために植えられていたらしいぞ。もしかしたらこの島で生えている理由もそうなのかもな」
「じゃあこれは?」
「それは萱草だ。薬用にも使われる橙の花だな」
「じゃあ、これ!」
「おい、この花今そっぽむいただろ。絶対コスモスの一種だ」
次々と答えていくレオンにElevenキラキラとした目を輝かしている。
「レオンさんくっわしい~! 見るだけじゃなくていろんな理由で植えられているんだね!」
「多種多様な花が乱雑に咲いているから、植えた奴は多分何も考えていないなこれ」
「それを私たちが 分けるのかー。せっかくノビノビと咲いているのに、なんだかもったいないかも」
「咲苦しそうだから場所を変えてやると考えればいい」
「人間みたいだね!」
「……そうだな」
二人はしばらく花を見回り、少し疲れてそうな花や、コスモスとは違う花を分別し、何を植え替えるか相談していった。
「本来なら植え替えるのは苗なんだが、正直花が咲いているものでも植え替えれば何とかなる気がするんだよな」
「え? それの何がいけないの?」
「花まで咲いている植物だと大体根が伸びすぎていて、植え替えても枯れてしまうんだ。だから若い苗を選ぶんだが……この植物たちは規格外だから別にいいか」
レオンが指を指した花畑は、窮屈そうだが、成長には何にも問題なさそうに咲いている。
「きっと手入れとかしやすいように改良? したのがこの植物なんじゃないかな!」
「多分そうだろう。この過剰な種のばらまきさえなければな」
「それでも育っちゃうんだからすごいよね~」
「手入れも必要だけどな。さて、やるか」
「いつぐらいになったら植物が元気に咲いてくれるかな?」
なんでも知ってるレオンさんと目が訴えているElevenにはっきりとレオンは宣言する。
「それは――」
「それは?」
「この植物は規格外だからわからん!!!」
「なるほど! わからん!」
「と、いうことで徐々に進めていったらいつか見れるだろう」
「それじゃあ、もし育ったら一緒に見に行こうかー!」
「せっかくだしな」
二人はその後も植木鉢などを駆使しつつ、徐々に花をコスモスとそれ以外の花たちみたいに分別していった。
~Eleven自室~
何度目か分からない花の手入れが終わった後、とうとう完成となった日、Elevenは自室の簡素なベットでうんうんと唸っていた。
(お礼とかしたいしなー。レオンさん、何が好きなんだろ)
(お花すっごい詳しかったし、もしかしたらかわいいものとか好きなのかな?)
(でも、普段のレオンさんからかわいいもの好きって聞かないし、もしかして怒っちゃうかな――)
ぶんぶんと首を振り、ネガティブになりそうな自分の考えを切り離す。
(ううん。人を育ちとか、見た目とかで判断するのはよくない! だって、)
自分の胸についているElevenと書かれたプレートを外し、そっと机に置く。
(だって、アタシが、金持ちの娘、夏 紫萱として、『お嬢様』として見られるのはイヤ。)
そのプレートをもう一回胸につけ、ベッドから立ち上がる。
(だから、アタシはレオンさんとあった直観を信じる!)
(喜んで、くれるかなあ)
Elevenは珍しく不安を前面に出しつつ、動きやすい格好に着替え、部屋を出ていく。次に会うとき、花を見に行くとき、ある物を渡すため。
部屋を出たElevenの表情は、いつものニコニコ笑顔。
~山道~
花を見るとの名目で、ちょっと遅めの、日が暮れる前に集合した二人はレオンの先導の元、山道をサクサクと登っていく。
「山道の上? でもいい場所なんて、ここにはあったっけ?」
「もともと、ここはハイキングコースだったらしいぞ? それに、いつもの花壇からある高台を見ることができたからきっとあるはずだ」
「すっごい観察眼! だね?」
「Elevenも割と周りを見ているほうだと思うがな、おっ、案外近かったな」
20分も経たずに高台についた二人。レオンとElevenが花畑を見下ろすと、コスモス畑と、自分たちが作った小さな花畑が目に入った。
「うわぁ~~。……ちっちゃい!」
「二人だったからな。限度ってもんがある」
「だけど、自分が手を入れた花がこんな満開に咲くなんて……」
一つはコスモスが整然と並びElevenの方を見ている花畑。もう一つはいろんな花がノビノビと咲いている、小さな花畑。
「あれか、こんなに遠い俺たちを判別しているのは光か? Elevenのデコに反応しているのか?」
「それじゃあレオンさんが将来ハゲになればいいってことだね!」
「やめろ。俺はまだふさふさでいたい。あいつらのためにハゲるなんで言語道断だ」
レオンさんよく分かんないことになってるよ? とElevenに心配されたがレオンは気にする風もなく、ぼうっと花畑を見ている。
「そうだな……。与えられるものより、自分が作ったというほうがいい。俺は、そう思う」
誰に伝えるでもないレオンの言葉が二人の間を過ぎる。
しばらく花畑を見つめる二人。日がだんだんと落ち、花畑を夕焼けに彩る。意を決したかのようにelevenが口を開く。
「ねぇ、レオンさん」
「どうしたEleven」
Elevenは並んで花畑を見ていたレオンのほうに向きなおる。手を伸ばせば届く距離。Elevenは持っていたカバンから何かを取り出した。
「これ、手折ってきたものなんだけど、レオンさんにあげる! お礼!」
多種多様な花がまとまった小さな花束をレオンに抱えさせるEleven。レオンの胸の下から顎につくくらいの背丈の花は、レオンの無骨さを少し隠し、彩を加える。
赤、白、黄、橙、明るい色でまとめられた花束は可憐で美しいというより、温和で明るく、何よりかわいい印象をレオンに与えた。
「えへへっ、やっぱり、似合ってる。レオンさんに合う、かわいい花を選んでみたんだけど、どうかな?」
レオンは自分のひそかな趣味、かわいいものを集めることがばれたせいか、Elevenから目をそらそうとする。しかし、無垢な目で見つめてくるElevenの顔から、レオンが予想していた嘲笑や侮蔑の表情は一切見られなかった。
レオンは安心し、そして、Elevenを見つめる。にこにこ笑顔に隠れたちょっとだけ不安そうな顔。それがEleven自身の『かわいい』を損なわせているかのように思えた。
――どうかはわからないが、自分を認めてくれた。ならば、自分も返す番じゃないか。
「Eleven、この花、少しもらっていいか?」
「もう、このお花はレオンさんのものだよ」
「そうか。……お礼がしたい。少し時間をくれ」
「お礼? えへへー楽しみだなー」
ほっと、一息。Elevenが安心したのかため息をついたところで、レオンは持ってきていた自分のカバンを開ける。入っているのは小さな人形や、それを修繕する小道具。レオンはもらった花束から橙の花を抜き、根元に小道具から取り出したワイヤーを刺し、花をしっかりと固定させる。テープでさらに固定し、ワイヤーの位置を調整すれば――即席髪飾りの完成だ。
「Eleven。待たせて悪かった」
「全然待ってないよー、何してたの?」
「Eleven、花束の中にあった橙の花、何かわかるか?」
「うーん、わかんない!」
「この花は紫萱。つまり、Eleven、いや、紫萱。お前の花だ」
レオンは即席の花簪をElevenに手渡す。Elevenはぼぅっとした感じで受けとり、花とレオンの顔を交互に5度ほど確認する。
「…………アタシの、『私』の花?」
「そうだ。……即席の花簪にしたんだが」
「私の、花。花簪。……つけてみますね」
Elevenが受け取った花を紫萱だと認識した瞬間、いつもニコニコした顔が引き締まり、精巧な人形のような雰囲気をまとう。普段とはまるで違う、端正な所作をElevenは維持しつつゆっくりと手を右耳の上部近づけ、持っていた花簪をつける。
深窓の令嬢とした雰囲気を纏ったElevenとはややアンバランスな桃色の髪と橙の花。そんなElevenが小さく口を開く。
「どう、ですか?」
レオンは雰囲気が変わったElevenに気づきつつも、一番最初に出た言葉を紡ぐ。
「ああ。とても、かわいい」
ふっと、二人の間を風が通りすぎる。
Elevenはレオンから貰った花簪、紫萱の花をそっと、触る。そして、胸につけたままだったElevenと描かれたプレートを外す。
「これが、私、紫萱。…………Elevenは私の理想、なんです。資産家の娘で物静かな紫萱ではなく、何者でもない明るいElevenは」
「理想、か。だが、俺はElevenも紫萱もどっちもお前だと思うぞ」
「…………どちらも、私?」
「ああ」
レオンはElevenの手にあったプレートを取り、紫萱の花簪につける。
「どっちも、お前自身だ」
「紫萱も、Elevenも私」
小さな声でつぶやいたElevenは一旦レオンに背を向け、だんだんと暗く、紫が強くなってきた夕焼けを見る。それは、明るいElevenと、物静かな紫萱の境目。
ややあってElevenがもう一度レオンのほうに振り返った後向けた顔はいつもの『Eleven』
「えへへー。レオンさん、だーいすきだよ!」
レオンはElevenの人格が入れ替わったかのような錯覚に陥るも、何とか平常心で言葉を返す。
「おっ? おう。気に入ってもらえたなら何よりだ」
「じゃあ、名残惜しいけど、帰ろっか!」
Elevenはレオンと並んで歩きだす。行きよりこぶし一つ分、二人の感覚が狭く、前へ進む足が自然とゆっくりに。
「それでー、レオンさんはかわいいものが好きなの?」
いつもの調子でElevenは尋ねるが、レオンは答えたくないように口を閉ざす。そんなレオンを見上げるようにのぞき込む。やがて、観念したのかレオンは首を縦に振る。
「………………好き、だな」
「じゃあ、アタシのことも好きってことだよね!」
「どうしてそうなるんだ?」
「だって、アタシ、今すっごくかわいいって思うんだ!」
『かわいい』Elevenがその場で一回転。小さく紫萱の、橙の花が揺れる。
「……そうかも、しれないな」
「アタシも、カッコいいレオンさんと、かわいいレオンさん。そんなレオンさんが好きだよ!」
「…………」
「夕焼け? のせいかな? 顔、赤いよ?」
「うるさい」
か細い声でつぶやいたレオンの声は聞こえなかったのか、あるいは聞こえていたのか。どちらにせよElevenはルンルン気分で山道を降りて行った。
(どっちの『アタシ』も『私』。そう言ってくれた、ううん、気づいてくれたのは初めてだったな。素直に、心から素直に、うれしいな)
夕焼けが全て紫に染まる。しかし、二人は様々な花束と、一輪の橙の花に彩られていた。
あとがき
読んでくださりありがとうございました。
最後のElevenをやりたくて書いたので結構独自解釈多めです。Elevenの『Eleven』は友達が離れていくのを防ぐために、作られたものであるということが伝わってれば(あとEleven本来の性格は深窓の令嬢)幸いです。レオンの方はほぼ原作通りだと思いますね。お花好きそうですし。
二人とも期待されている自分と本当の自分をどちらも認めてくれる存在を必要としてくれてたらいいなーって妄想していました。マジメなEleven書くの難しいです。あとそれとなくElevenのお嬢様要素を出したのですが、伝わっているかは分かんないです。
Elevenの名前である紫萱は高貴な女性に育ってほしいという願いでつけられることが多いそうです。ググって知りました。あと紫萱の花は色が黄色、赤などがありました。ググって知りました。あと途中で出てきたElevenのプレートはElevenクラシックスキンにあるアレです。本当は新年スキンを入れたかったのですが(おまけで莉央と絡ませる予定だった)文章が長いのと完全な蛇足なのでカット
レオンは器用なのと細かい点をちゃんと見ているってのを描写したつもりですが、これを根幹に持ってくるのは難しいです。いつか細かいところくをねちねち攻撃するレオン(実験日誌に似たようなことが書いてある)書きたいですけどシチュエーションが思いつかないですね。
次回はモチベが湧けばアレ彰一。もしくはElevenが実験で優勝するお話かもしれません。後者はなんか違う意味で解釈できそう。アレックスってなんで実験体の立場でスパイしてるんでしょうかね。研究員に紛れ込ませた方がよさそうなのに、それとも何らかの生け贄みたいなものかな? なんて考えてますがどうなるかはわかりません。